第11回毎日パソコン入力コンクール 全国大会・冬季大会 第6部 和文B(文字数1,800字程度) 平成23年7月18日、8月1日付 毎日新聞社説・余録より引用 電子書籍 出版文化を守りたい 社説:電子書籍 出版文化を守りたい  パソコンや専用端末で、インターネットから情報をダウンロードして読む電子書籍の市場が広がっている。しばらくは紙の本の優位が続くとしても、日本の出版界は過渡期を迎えつつある。自由な表現や言論を支える出版文化は民主主義社会の生命線だ。電子化の進行がマイナスに働かないようにしたい。  メディア関連の調査をしている「インプレスR&D」によると、2010年度の電子書籍全体の販売額は約650億円。前年度から約13%増えた。15年度には約2000億円になると予測している。  従来、携帯電話向けのものが多く、10年度も88%を占めている。コミックが中心だった。これに対して、昨年以来、「iPad」をはじめ、電子ブックリーダーやスマートフォン(多機能携帯電話)など、電子書籍が読める新しい端末が次々と発売されたこともあり、文芸書やビジネス書などの販売も増えている。13年度には新端末向けの販売額が携帯電話を超えると考えられている。  一方、大手出版社が新刊を電子書籍化する動きも目立ってきた。新潮社は8月から、著者の許可が得られた本については、紙の本の刊行半年後に原則として電子化することを決めた(文庫などは除く)。講談社も積極的で、来年6月をめどに著者が許可すれば、刊行物を電子化する態勢づくりを進めている。  電子書籍はネットに接続ができれば、いつでもどこでも買えるうえ、置き場所に困らず、持ち運びも便利だ。版を維持するコストも少なくてすむ。10年の紙の書籍(雑誌を除く)の販売額は8213億円(出版科学研究所調べ)で、4年連続の前年割れだった。電子書籍には、出版不況の中、新しい読者を獲得するきっかけにしたいという期待もある。  しかし、さまざまな問題点も指摘されている。最も大切なことは、出版の多様性が守られ、著者や出版社の権利が侵害されないことだろう。  特に価格設定について、慎重な検討が必要だ。各出版社とも、紙の7〜8割に設定している。安くし過ぎると、質の高い作品を生み出したり、正確な情報を流通させたりする出版のシステムがダメージを受けかねない。一方で、紙に比べてさまざまな費用が不要なのだから、安くすべきだという議論もある。何らかのルール作りが求められるのではないだろうか。  出版文化を担う一翼だった取り次ぎや書店はどうなるのかという問題もある。書店が「街の小さな文化センター」のような役割を果たすというのも一つの考え方だろう。  この大きな変化を出版の危機ではなく、人々の読書体験を活性化するチャンスにしたい。 毎日新聞 2011年7月18日 余録:松尾芭蕉は俳諧紀行「奥の細道」の旅で…  松尾芭蕉は俳諧紀行「奥の細道」の旅でなぜ、東北へ行ったのか。実は、源義経の五百年忌をまったく私的にひっそりと祭りたくて行ったのではないか。義経が高館(たかだち)(岩手県平泉町)で藤原泰衡(やすひら)に討たれ、自害したのは文治5(1189)年。芭蕉が古戦場を訪れたのは元禄2(1689)年。ちょうど500年後に当たるのだ▲丸谷才一さんの長編小説「輝く日の宮」(講談社文庫)で主人公の女性国文学者が学会で発表するユニークな説だ。大胆な考え方らしく、小説の中ではベテラン研究者から批判されるが、一度読むといつまでも忘れられない魅力的な仮説だ▲まず、悲劇の武将と俳聖との組み合わせが抜群に面白い。500という数字がきれいで、スッキリと胸に落ち着く。それに何より、悠久に続く時間の流れを感じることができる▲先日、世界文化遺産に登録されたばかりの平泉を訪れた。芭蕉の「夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」の句碑がある毛越寺(もうつうじ)にお参りし、ふもとに義経妻子の墓がある金鶏山にも登った。大震災のために激減した観光客も回復した。観光バスで楽しむ団体客より、個人で散策する人が目立つという。確かに、リュックを背負って歩く姿をあちこちで見かけた▲12世紀に隆盛した平泉は、浄土(仏がすむ場所)をこの世に体現したものだとされる。往時へタイムスリップし、歴史を思う。これこそ、世界遺産を歩く妙味だろう▲大震災から、まもなく5カ月。たとえば、500年後、原発事故はどんなふうに記憶されているのだろうか。復興の行方を見失わないためにも、大きな時間の流れの中で文明の行方を考えたい夏だ。 毎日新聞 2011年8月1日